10年目の命日(2006年記)
  <NO1>  
2006年2月25日から6日間、ブログに書いたものをこちらに転記しました。

☆・゜・。・・☆゜・。・。。・゜☆

あれから、丸10年…。

年は少し離れていたけど、当時一番仲良く遊んでいた女の子が、
10年前の今日、自殺した。
飛び降り自殺だった…。

今まで、あまり話すこともためらわれた事件だけれど、
10年たち、このまま記憶が薄れていくのも悲しいから、
彼女の話を10年目の命日にちなんで書こうと思う。


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彼女とは、その事件の1年ぐらい前に知り合っていた。
私が当時やっていたナレーション仕事の一つ、とある会社の社員だった。
非常に人懐っこい性格で、
初めて会って以来、コンスタントに電話やFAXをくれ、
会社仲間との食事会などにも、よく誘ってくれた。
年上の人たちと付き合うのも全然苦にしないタイプで、
おじさんたちと一緒でも、とても楽しそうに過ごす。

金銭感覚も、『バブル終わりの世代』ぐらいだった割には質素。
それになりに、おしゃれだったけど、
古着屋さんめぐりが好きな子で、
「今日は上から下まで全部で800円で〜す。」
なんて自慢するような子だった。
それに、まだ入社1年目ぐらいなのに、年上の私や、おじ様たちとの食事会でも、
「今日はプライベートで来ているのだから、ちゃんと割り勘にしましょう。」
などと言い出し、好きな人におごられるのが嫌いな子だった。

ある時、彼女に
「有給が溜まっているし、旅行に行きましょうよ。」
と誘われ、仕事仲間の男の子一人も誘って、3人でトルコ旅行にいったりもした。
私は二人で行くつもりだったので、彼を誘うと聞いた時は、正直驚いたけど、
別に、彼が目当てで私をダシに使ったわけではなく
本当に、純粋に、「皆で行った方が楽しい。」と、思っていたようだった。

誰に聞いても、『Aちゃんは本当にいい子だよね〜。』と言っていた。
彼女の悪口を言う人など聞いた事がなかった。

そんな彼女が、11月の終わりに突然会社を辞めた。
トルコ旅行から帰って1ヶ月たつか、たたないかの頃だ。
社長とけんかをしたという。
確かにちょっと癖のある社長だったので、まあ、「さもありなん」と、別に驚きもしなかった。
「次の仕事のあてはあるの?」と聞くと
「来年から渋谷のタウン誌で働けそう。」
とのことで、今、アルバイトで週何日か通っていると言う。
それならよかったと安心した。
そして
「今、結構時間があるから、ゴスペルのクリスマスコンサートに行きませんか?」
と誘われた。
当時ちゃんと付き合ってる人もいなかったから、
そんなしゃれたお誘いをしてくれる人もなく、素敵な提案だった。
もちろん断るわけもない…。

そして、ある事件が起こった。

1995年、12月17日(日)

午後2時から大久保のグローブ座で行われたコンサート。
ウーピー・ゴールドバーグ『天使にラブソングを』のおかげで、
ゴスペルはそこそこ有名になっていて、小さなホールながら満席だった。
結構、長時間のライブで、途中、トイレタイムをはさんでの2部構成。
そして、アンコールのスタンディングの時・・・。
なぜか隣の席の彼女が立たない。
ノリの悪い子じゃないのに、どうしたのかな?と思い、
「体調、悪いの?」
って声をかけたけど、大丈夫と言うから気にしなかった。

終わってから、彼女が
『明日家族と出かけるので早めに帰りたい』と言うので、
少し早いけど、高田馬場に出て食事をした。

お会計をしようとしたとき…
…財布がないのに気がついた。

「わっ、お財布がない!!」
『最後にどこで使いました?』と、彼女。
「わかんないけど、少なくとも会場を出から一度もバッグは開いてないし、
休憩時間にトイレに行ってハンカチを出した時が、かばんを開いた最後だから、
そのとき落としたのかも。」
『じゃ、グローブ座に戻って聞いてみましょう。私も一緒に行きます。』
「明日早いのにいいの?」
『大丈夫ですよ。大事件ですもん。』

そこの店の払いを彼女に立て替えてもらい、私たちはグローブ座に戻った。
途中、「そうだ ! カードを止めなきゃ。」と、気がつき、当時使っていたDCカードに電話。

当時は、携帯がやっと一般の人も買える程度の値段になり始めた頃。
私は、まだ持っていなかったので、外の公衆電話からの電話だった。
色々聞かれたので、かなり長い時間、寒い中、隣で彼女は待っていてくれた。

そして、グローブ座へ戻ったけど、落し物の知らせは入っていなかった。
お財布だから無理だろうな〜、とあきらめて、帰りに交番に立ち寄って紛失届けを出し、
彼女にお金を借りて、家へ帰った。

お財布の中は、現金は3万円ほどだったけど、銀行カードや免許証が入っていたので、
それの後始末にゆうつになっていた。
銀行は時間外だったので、明日の朝一で、銀行カード紛失を届けるしかない。
(現在は時間外引き出しも可能だから、24時間受け付けているだろうけど、
当時は、日曜の夜等の現金引き出しは一切出来なかったから、
紛失届けの受付も夜間はやっていなかったのだ。)

今夜はもう、する事がないので、実家の母に電話して、
「聞いてよ〜、大事件〜 ! 」
と、グチグチ話していた。
そのとき突然、
「あっ、そういえば、作ったはいいけど、全然使ってないセゾンカードも入ってたんだ!!」
と、思い出した。
あわてて母との電話を切り、セゾンに電話した。

すると、
『何時になくしました?』
と聞かれる。
「なくした時間はわかりませんが、少なくとも会場に入るときはあったから、
午後1時半〜気がついた4時半の間だと思います。
それから会場に探しに行ったりしたので、
警察に紛失届けを出したのは、午後5時半頃です。」
と答えた。

『では、最後にカードを使われたのはいつですか?』
「ごめんなさい、全然使ってなかったので、多分1年以上前だと思います。」
と、私。
『そうですか…。
本日の午後6時半ごろ、新宿ぺぺで、3万円、7万円の使用がありますね。』
「えっ…?!」 私、絶句。

お金は取られても、カードなんて足がつくから、
絶対使われていないだろうと思い込んでいたのだ。
「でも、裏にちゃんと私の…女名前の署名がしてありますから、
ってことは、犯人は女ってことですよね?」
『それはまだ判りません。これからお店に問い合わせて調査いたします。
お手数ですが、財布の紛失届けの証明番号を警察に問い合わせ、
こちらへお知らせください。』
・・・
前に財布を置き引きにあったときは、現金、しかも1万円札のみ抜き取られていたので、
今回も、なんとなく、財布そのものは出てきそうな気がしていた。
甘かった。
世の中には恐ろしい人がいるもんだ。・・・
放心状態になっていた時、彼女からタイミングよく電話がかかってきた。

『さなえさん、大丈夫ですか?』
「それが大変なのよ〜。1つ、使ってないカードが入っていたのをすっかり忘れてて
今さっきあわてて電話したら、もう遣われてたの !
女のカード使ってるんだから、犯人は女でしょう? すごい人がいるよね〜?」
『え〜、そうなんですか。大変ですね。保険は利くんですかね〜?』
「どうなんだろう? でも、紛失届出してるし、大丈夫じゃないかな?」
『何に使われたんでしょうね?』
「新宿ぺぺでブーツと洋服だって !  でね、使われたのは6時半ごろなんだって。
ってことは、ちょうど私が帰りの電車に乗ってる頃よ !
いったい、何時に拾ったのかしらね?」
『ところで、お財布はどこのブランド使ってたんですか?』
「あはは、どこだろう? 貰ったもんだからわかんないや。
もう結構古かったから、そんなのはどうでもいいんだけど、
免許証の再発行や、銀行カードの再発行がめんどくさいよ〜。
明日、早速、鮫洲に行ってくるわ。」

そんな話をして、電話を切った。
3日後にちょっとしたパーティーに彼女を呼んでいたので、
その日に、借りていたお金を返し、
又ひとしきり、犯人はどんな人なんだろうねぇ、なんて話をしていた。
ただ、時は年末年始。
忙しさの中に忙殺されて、私の中では「ちょっとネタになる話」程度のことに、
過去のことになりつつあった。

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