10年目の命日(2006年記) 
<NO2>
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1995年、12月17日(日)

午後2時から大久保のグローブ座で行われたコンサート。
ウーピー・ゴールドバーグ『天使にラブソングを』のおかげで、
ゴスペルはそこそこ有名になっていて、小さなホールながら満席だった。
結構、長時間のライブで、途中、トイレタイムをはさんでの2部構成。
そして、アンコールのスタンディングの時・・・。
なぜか隣の席の彼女が立たない。
ノリの悪い子じゃないのに、どうしたのかな?と思い、
「体調、悪いの?」
って声をかけたけど、大丈夫と言うから気にしなかった。

終わってから、彼女が
『明日家族と出かけるので早めに帰りたい』と言うので、
少し早いけど、高田馬場に出て食事をした。

お会計をしようとしたとき…
…財布がないのに気がついた。

「わっ、お財布がない!!」
『最後にどこで使いました?』と、彼女。
「わかんないけど、少なくとも会場を出から一度もバッグは開いてないし、
休憩時間にトイレに行ってハンカチを出した時が、かばんを開いた最後だから、
そのとき落としたのかも。」
『じゃ、グローブ座に戻って聞いてみましょう。私も一緒に行きます。』
「明日早いのにいいの?」
『大丈夫ですよ。大事件ですもん。』

そこの店の払いを彼女に立て替えてもらい、私たちはグローブ座に戻った。
途中、「そうだ ! カードを止めなきゃ。」と、気がつき、当時使っていたDCカードに電話。

当時は、携帯がやっと一般の人も買える程度の値段になり始めた頃。
私は、まだ持っていなかったので、外の公衆電話からの電話だった。
色々聞かれたので、かなり長い時間、寒い中、隣で彼女は待っていてくれた。

そして、グローブ座へ戻ったけど、落し物の知らせは入っていなかった。
お財布だから無理だろうな〜、とあきらめて、帰りに交番に立ち寄って紛失届けを出し、
彼女にお金を借りて、家へ帰った。

お財布の中は、現金は3万円ほどだったけど、銀行カードや免許証が入っていたので、
それの後始末にゆうつになっていた。
銀行は時間外だったので、明日の朝一で、銀行カード紛失を届けるしかない。
(現在は時間外引き出しも可能だから、24時間受け付けているだろうけど、
当時は、日曜の夜等の現金引き出しは一切出来なかったから、
紛失届けの受付も夜間はやっていなかったのだ。)

今夜はもう、する事がないので、実家の母に電話して、
「聞いてよ〜、大事件〜 ! 」
と、グチグチ話していた。
そのとき突然、
「あっ、そういえば、作ったはいいけど、全然使ってないセゾンカードも入ってたんだ!!」
と、思い出した。
あわてて母との電話を切り、セゾンに電話した。

すると、
『何時になくしました?』
と聞かれる。
「なくした時間はわかりませんが、少なくとも会場に入るときはあったから、
午後1時半〜気がついた4時半の間だと思います。
それから会場に探しに行ったりしたので、
警察に紛失届けを出したのは、午後5時半頃です。」
と答えた。

『では、最後にカードを使われたのはいつですか?』
「ごめんなさい、全然使ってなかったので、多分1年以上前だと思います。」
と、私。
『そうですか…。
本日の午後6時半ごろ、新宿ぺぺで、3万円、7万円の使用がありますね。』
「えっ…?!」 私、絶句。

お金は取られても、カードなんて足がつくから、
絶対使われていないだろうと思い込んでいたのだ。
「でも、裏にちゃんと私の…女名前の署名がしてありますから、
ってことは、犯人は女ってことですよね?」
『それはまだ判りません。これからお店に問い合わせて調査いたします。
お手数ですが、財布の紛失届けの証明番号を警察に問い合わせ、
こちらへお知らせください。』
・・・
前に財布を置き引きにあったときは、現金、しかも1万円札のみ抜き取られていたので、
今回も、なんとなく、財布そのものは出てきそうな気がしていた。
甘かった。
世の中には恐ろしい人がいるもんだ。・・・
放心状態になっていた時、彼女からタイミングよく電話がかかってきた。

『さなえさん、大丈夫ですか?』
「それが大変なのよ〜。1つ、使ってないカードが入っていたのをすっかり忘れてて
今さっきあわてて電話したら、もう遣われてたの !
女のカード使ってるんだから、犯人は女でしょう? すごい人がいるよね〜?」
『え〜、そうなんですか。大変ですね。保険は利くんですかね〜?』
「どうなんだろう? でも、紛失届出してるし、大丈夫じゃないかな?」
『何に使われたんでしょうね?』
「新宿ぺぺでブーツと洋服だって !  でね、使われたのは6時半ごろなんだって。
ってことは、ちょうど私が帰りの電車に乗ってる頃よ !
いったい、何時に拾ったのかしらね?」
『ところで、お財布はどこのブランド使ってたんですか?』
「あはは、どこだろう? 貰ったもんだからわかんないや。
もう結構古かったから、そんなのはどうでもいいんだけど、
免許証の再発行や、銀行カードの再発行がめんどくさいよ〜。
明日、早速、鮫洲に行ってくるわ。」

そんな話をして、電話を切った。
3日後にちょっとしたパーティーに彼女を呼んでいたので、
その日に、借りていたお金を返し、
又ひとしきり、犯人はどんな人なんだろうねぇ、なんて話をしていた。
ただ、時は年末年始。
忙しさの中に忙殺されて、私の中では「ちょっとネタになる話」程度のことに、
過去のことになりつつあった。

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