10年目の命日(2006年記)  
<NO3>
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1996年…。年が明けた。

年明けそうそう、彼女から
「お買い物に行きませんか?」と電話。

1月4日に、渋谷に買い物に出て、久しぶりに、年末の事件の話をする。
「セゾンから何にも言ってこないのよ。
だから、月末に請求書が来ない限り、保険が利くのかどうかもわかんないの。」
『そっか、大変ですね〜。
私も新しい仕事が本当は来週からだったのに、少し伸びてるんです。』
「じゃ、お互い無駄遣いしないで早く帰ろう。(笑)」
と、食事もしないで帰ってきた。

本当は、カードのことなど心配もしていなかったのだが、
彼女の方の仕事が、なんとなく怪しいのかもしれないと心配したのだ。
渋谷のタウン誌だというのに、「そのタウン誌、どこかで配ってないの?見たいな。」
って聞いても、なんとなくうやむやにされたので、
もしかすると、その会社に勤める事を逡巡しているのかな?
って気がしたのだ。

それから2週間後の、1月18日(木)・・・。

午後から、仕事があって、その支度でバタバタとしている時に、電話が鳴った。
セゾンからだった。

『セゾンカード紛失係です。
年末の件、カード使用の控えのサインが手に入ったのですが、
お名前も電話番号も間違いがありませんでした。』
と言う。
えっ? なんでだろう? って思ったけど、すぐに気がついた。
「あぁ、もしかすると名刺が入ってたかもしれません。
名前は漢字でした? 平仮名でした?」
『平仮名でした。』
「じゃあ間違いないわ。実は、免許証の名前は漢字なんです。
そっちを見たら、漢字でサインするだろうけど、
平仮名になってるってことは、名刺を見たんだと思います。」

その後、いくつかの質問に色々答えていたんだけど、
突然、係の人の声のトーンが変わった。

『実は、ご本人の名前と電話番号が合っている場合、
ご本人が使用しているのに、嘘の紛失届けを出している場合が結構あるのです。
しかし、私どもは、長年こういう対応をしておりますから、
あなた様が嘘をついていないのは、十分判断できました。
となりますと、とても言いにくい事ですが、
私どもは、あなた様のお友達が犯人であると判断いたします。』

一瞬、何を言われているのか、理解できなかった。
『あなたのお友達が犯人・・・』
おともだち・・・?

…彼女の事を疑っているのか?!

「ど、どういうことですか? そんな、ありえません。」
『あなた様がどうお思いになろうとも、
こちらとしては、警察に、被害届けを出さなくてはなりませんから、
そうしましたら、警察も、お友達を疑われると思います。
ご本人様に、一度お話をなさってみてはいかがですか?
そして、もしお友達が、弁済していただけるのでしたら、
こちらは、今回は被害届けを出しませんから。』

「…でも。彼女がそんなことするなんて信じられません。何を根拠に…」
『お友達の書く文字はごらんになった事がありますか?』
「え?… はい。よくFAXを貰ってましたから。」
『では、弊社にお越しください。
サインの控えがございますから、ご覧になれば、納得いただけるかもしれません。』

頭の中で、いろんなことがぐるぐる渦を巻いていた。
彼女が?
確かに、彼女なら、私の名前は、平仮名でしか知らないし、
電話番号は、毎日のようにFAXや電話をくれてたから、空で覚えているだろう。
犯行時刻は、私と分かれた後だ。
財布をなくしてから、犯行までの妙なタイムラグも、確かに彼女の犯行なら納得できる。
でも、全部状況証拠だ。

…だけど、サインがある。
警察に届けられれば、警察は彼女の筆跡を鑑定するだろう。
もしそれが本当に彼女のものと一致したら…。
体が震えた。
とにかく、先ずは私が確かめに行こう。
それからだ。

頭が真っ白のまま、私は仕事に出かけた。

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