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Bさんの話によると、話し合いの末
1、会社は本日付で、解雇。
2、今まで盗んだお金は、2年の分割で返却する。
3、今後、2度とこのようなことをしないと誓う事。
万一、どこかで同じような事をしたということが耳に入ったら、
それがまったく会社に関係ないことだとしても、今回の事を告訴する。
ということになったらしい。
つまり、彼女にはそういう『癖』があったというのだ。
『一緒に旅行に行ったとき、大丈夫だった?』
とも、逆に聞かれた。
全然、まったく、そんなことは何もなかった。
私にとって、一昨日までの彼女は完璧だったのだから。
彼女は、大学の時、他大学のヨットサークルに属していて、
そこでかなり嫌な事があったらしい。
当時、かなり太っていて、それに関しても何か言われたようで、
その後、典型的な『過食症の拒食症』になった。
大量に食べては全部吐き戻すので、ガリガリに痩せてしまい、生理も止まったのだ。
それで、精神科に通っている。
盗み癖は、その頃から始まったらしい。
一種のジキルとハイドで、
普段、ありえないほどいい子だったのは、
ある意味、そういう精神的なバランスが崩れていたのではないか。
ということだった。
『トルコ旅行に10日も行っただろう?
実は、何でそんなお金があるのか、皆で不思議がってたんだよ。』
Bさんは、そうも言った。
私は、一度も就職をしたことがないので、短大を卒業した21〜22才の女の子が、
手取りでいくら貰っているのかなど、見当もつかなかった。
ただ、実家から通っている子だったから、給料は全部、こずかいだったろうし、
洋服も、「古着でトータル800円」ですんじゃうような子だから、
トルコに行くくらいの貯金はいくらでもあるだろうと思っていた。
確かに、一緒に行った5歳ほど年上の男の子が
予算がきついとぼやいていたけど、
「男の子は、貯金なんてしないからね。女の子は別
!
」
と、思い込んでいた。
『だって、ダイビング旅行にだって、彼女はしょっちゅう行ってただろう。』
と、Bさん。
あぁ、確かにそうだった。
でも、それだって彼女は
『すごい貧乏旅行なんですよ。
滞在費浮かせるために、行くと必ず、旅館で仲居のアルバイトしてるんですから。』
と言っていた。
だから、だから、…お金の出所なんて、想像もしていなかった。
私は、いったい彼女の何を見ていたのだろう…。
精神科の病院に通っていたのは知っていた。
しかし、彼女は私に
『生理不順で病院に通っているの。』と言っていた。
言いたくない事をあえてほじくる事もないだろうと、知らないフリをしていた。
ヨットサークルでいやな思いをした…という話も本人から少し聞いていた。
私はチラッと、(まだ当時は、知られてもいなかったけど、)
早稲田大学のサークル「スーパーフリー」みたいな話なんだろうな…と、思った。
正直、「スーパーフリー」みたいな話は、昔から大学にはいくらでも転がっている。
(計画的というのはともかくとして。)
ただ、そんなことを告発できるような社会的風潮もなかったし、
言った所で、もっといやな思いをするのは女の子自身だから、
女の子たちは皆、黙っているのだ。
…だから、Aちゃんも
きっとそれ以上は聞いてほしくないんじゃないかと思って、あえて聞き出さなかった。
(単なる私の勝手な想像だけど。)
食べ物を吐き戻しているのも知っていた。
皆で食事に行くと、彼女は帰る間際に、必ず長いトイレに行く。
最初はそれが何を意味するのか良く判らなかったが、
トルコ旅行に行って、はっきり判った。
気配は消していたが、間違いなく、毎食後吐いている、と。
でも、私は何も言わなかった。
なぜなら、仕事柄、スレンダーなお友達は沢山いて、
彼女たちが、そのスタイルを保つために吐いている事をよく知っていたから。
「Aちゃんはスレンダーでうらやましい。」みたいな話をした時、
『学生の時はすごく太ってたんです。』って言ってたから、多分そのコンプレックス…
ヨットサークルでの事件等も絡み、そういうことをしているのだろう…。
だから、今吐いている事についてとやかく言うのは、きっと逆効果だ。
それに、ある程度年齢が行ったら、自然にやめるだろう…。
そう、思っていたのだ。
私の対応は間違っていたのだろうか?
もっと突っ込んだ方がよかったのだろうか?
私は、彼女よりかなりお姉さんだった。
だから、下手な事を言うと、「説教」になってしまいそうで、
今考えると、友達としてのバランスを崩すのが、きっと、こわかったのだろう。
それが間違いだったのだろうか?
最後に、Bさんが言った。
『この件は、うちの社長に預からせてくれる?』
…渡りに船だった。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
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